アントラサイクリン系薬物による心筋障害が古くから注意喚起されてきましたが、いまだに不幸な患者さんを散見します。最近開発される抗悪性腫瘍薬のほとんどが分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬ですが、分子標的薬も心機能障害、QTc延長、静脈血栓塞栓症、末梢動脈閉塞など心血管系の合併症を惹起し、免疫チェックポイント阻害薬は重篤な心筋炎を引き起こすリスクがあります。
がんの治療成績が向上し予後が改善しましたが、心血管系の合併症はがん治療中だけではなくがんを克服した後も問題となり、もともと循環器疾患を抱えた患者さんががんに罹患することも増えています。患者さんのためにも長期にわたり循環器専門医とがん治療専門医が連携することが求められます。
がん治療に伴う循環器の合併症を予防・克服するための研究を促進し、合併症が生じてもがん治療が不十分とならないように診療連携体制を強固なものとする必要があります。
また、がん治療による循環器合併症やその治療効果に民族間差がある場合もあり、海外で示された有用性がそのまま日本人に当てはまらない薬物もあります。臨床試験により我が国から情報を発信していく必要があります。そのために本学会が果たす役割は大きいと考えます。
腫瘍循環器の問題はさまざまな施策の対象とされるようになり、今後、大きく発展する学問領域です。がんを診療しているすべての病院で腫瘍循環器の診療にアクセスできる体制の構築を目指し、この領域の医学の発展を通じて患者さんのQOLと予後の改善に日本腫瘍循環器学会は取り組んでまいります。
ご支援とご指導を、よろしくお願い申し上げます。